van der Pol方程式について

硬い常微分方程式のもっとも有名な例のひとつがvan der Pol方程式*1であろう.
van der Pol方程式は, \ddot x-\epsilon(1-x^2)\dot x + x = 0で表現される2変数の力学系であり, 振動現象を起こす. この方程式のミソといえるのが\epsilonであり, この値が大きいほど非線形性が増し, 硬い問題となる.*2
まずすぐにわかることは, この\epsilonが0のとき, van der Pol方程式は単純調和振動\ddot x = -x(いわゆるサインカーブ)と等しいということだ.
もともとvan der Polはこの振動子を1920年代に電気回路として組み立てたが, このときは3極管や5極管を組み合わせて用いていた. しかし, 1957年に後述するトンネルダイオードが発明されたことにより, コンデンサとコイルとトンネルダイオード(と直流電圧源)から構成された, よりシンプルな回路となった.
さて, van der Pol方程式の\epsilonはちょうどこのトンネルダイオードの重みづけに対応する. つまり, \epsilon = 0とはトンネルダイオードをvan der Polの回路から引き抜いた状態であり, これはちょうどLC発振回路である.
発振回路は大きく2種類に分類することができる.

  • 帰還型 Harmonic oscillator
  • 弛張型 Relaxation oscillator

先ほどの単純調和振動子が帰還型であるとすれば, van der Pol方程式はトンネルダイオードを含むことによって弛張型の振動子となる. 帰還型の振動がフィードバックの時間遅れ(位相のずれ)によっておきるのに対して, 弛張型はトンネルダイオードの含む非線形*3によっておこる.
これをわかりやすくするために先ほどの2次の微分方程式を2変数系に書き換えてみると, \left\{\begin{eqnarray}\dot x &=& -\epsilon\phi(x)-y\\ \dot y &=& x\end{eqnarray}\right.ただし, \phi(x)=\frac{x^3}{3}-xとなる.
この\phi(x)がトンネルダイオードの電圧と電流の関係式で決まる. 前述の例で, これは3次の多項式であり, 極大値と極小値をひとつずつもつ関数となる. 数理モデルとして弛張型の振動子を考えるときには, この関数がどのようにして生じるかを考えることがミソであると思う. 一般的には, ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックの組み合わせによってこのような式が生じる.
ちなみにニュートン物理でいえば, この\epsilon以下の項は, 速度に応じて力が決まるダンパ(ショックアブソーバー)に相当する.
http://www.scholarpedia.org/article/Van_der_Pol_oscillator
http://en.wikipedia.org/wiki/Tunnel_diode
http://ja.wikipedia.org/wiki/発振回路
以上のサイトを参考にした.

*1:ファン・デル・ポール方程式.

*2:問題によってはこの\epsilonの逆数を\epsilonとして定義している場合もあり, その場合は逆に0に近いほど硬くなる.

*3:ヒステリシス性とか双安定性とかといっても良いかもしれない.